現況
最近の状況をお知らせします。
医学社会学の定義を1995年に書籍として出版する際に行った現地踏査から10年ほど経過しました。当初の計画に従って同一地点の写真による再調査を行っています。
10年前の現地踏査の際に気がついた断層変位地形の有無についても専門家への基礎資料の提供を目的に調査を行っています。
災害時に於ける後方支援を目的とした医療施設及び医薬品倉庫とその周辺の水路を中心とした断層変位地形などの写真撮影が終了次第、一般公開する予定です。
この機会に、これまで明らかにしなかったアンケート分析の視点を明らかにします。更に中間総括と医学社会学研究会の創設に向けて書かれた関係者への呼びかけ文を公開します。
アンケート分析の視点
このアンケートの目的などは本文に詳しく論じているので省略させていただく。
その視点と方法について述べます。
一般社会人である個人とその家族が都市東京での実生活をどのように過ごしているのか。
この事を基礎としながら、アンケートに回答してくれた諸個人の視点に近づく努力をしました。
その内容は食生活を初めとする諸個人の生活史の中に入るというものでした。
感情移入を行うためには現地踏査は不可欠でした。その結果を視点として予め用意していた課題を解析するという方法を採りました。
まず、対象とする個人の出身地と生活実態や人生観の間に相関関係があるか否かを知るために幾つかの項目を用意しました。
次に信仰心の度合いや特定の宗派への帰依の有無によって、生活のさまざまな側面にどう影響があるのか調べました。
これはデーター化もしてありますが、本格的な解析は行っていません。
続いて医療を転換点として、個人と知的領域である医学との関係を調査しました。
ここで得られる情報は個人情報の表層から実体に至るものです。
次の段階において、その個人が周りの状況にどう関わろうとしているのか調べることが重要となります。
この本質論的段階の分析のために、個人の心性と周囲に対する知的関心の内容を調査しました。
その一部を例示します。
例えば、男女別姓についての質問は家族社会関係を知る為に用意されていました。
その結果と天皇制について質問した項目との相関を調べることによって家族社旗関係の深層とその個人の一般社会との関わりを知ることができます。
その方法は、心性において家父長的支配を象徴すると考えられている天皇制についての記述された内容や有無そして選択式回答の内容や有無を調べることでした。
次に、男女別称の是非を問うた回答内容と天皇制について回答された内容との差違と予め想定していた相関関係とを照合する事でした。
この結果は第2章7項の個人と医療環境の箇所で論じています。この部分は一般公開をしていません。この為に別のホームページで公開しています。
現在、現地踏査の結果による前回の判断の妥当性と方法論の検証をを行っています。
医学社会学序論の中間総括論文
医学が文化体系のひとつであり、その社会を構成する意識構造の一部として存在し、対称的に経済活動を基盤とした人々の営みはその経済的制約を受けた実生活構造として存在する。
この対象を成す二つの関係を分析する要因およびその関係について整理した。諸個人が実生活を営む中で病期となり、その病を癒すために医療機関を訪れたときに治療過程は実生活の一部となり、否応なしにそれまでの日常生活の変化を余儀なくされる。
この辺りが分析の対象である。
諸要因
救急医療施設の存在
救急医療施設への搬送途中の状況
救急医療施設までの距離
診療機関の人的、設備的な体制
医療機関と患者居所との地理的条件
医療機関と患者居所をつなぐ居住環境
診療に際した社会保障体制
社会保障体制と患者の家計
患者住居周辺の自然環境
患者と収入源を軸とした利益社会関係(地域としての村落と都市)
患者と地域社会との関係を軸とした共益社会関係(地域としての村落と都市)
患者の思想信条と家族間の紐帯軸との差違(家族社会関係)
家族紐帯軸と家族構成の差違(家族社会関係と現況)
患者の居住環境
医療環境
救急医療施設の存在
救急医療施設が近くに在るか無しかによって、その後の治療過程に影響が及ぶ事が多い。また、予後に重大な影響を与える疾患も多々ある。
救救急医療施設への搬送途中の状況
急施設があった場合、そこへ搬送する過程で、どのような緊急処置が執られるかによってその後の治療方法も変わる。
救急医療施設までの距離
救急医療施設と発病または事故に遭遇した場所との距離は治療を受ける機会がいつ訪れるかを規定する要因となる。
診療機関の人的、設備的な体制
搬送先の診療機関において初療医あるいは専門医がいるか否かによって、また看護士がいるか否かによって、的確な治療内容が何かが決定される。
この人的要因の他に中央検査室や検査機器類の充実度によって確定診断に至る検査体制が決定される。
医療機関、特に総合病院と患者居所との地理的条件
独自のアンケート結果や東京都衛生局の病院別受診率結果によると、東京都民は医療機関のうち総合病院指向が多い。
このため、特に総合病院を例に取り上げて論を進めることにする。
総合病院に通院もしくは入院した場合に、患者が通院するときや入院患者家族が見舞いにゆくときの交通の便は患者とその家族にとって重大な問題となる。
緊急搬送されたときを除いて、患者本人とその家族にとって病院と付近の駅そして居所との地理的条件は病院選択の決定要因となる。
医療機関
特に総合病院と患者居所をつなぐ居住環境
交通機関などの地理的条件を満足した場合、居所から駅への居住環境そして駅から病院への道路環境は治安状態の良し悪しを判断基準として病院選択の決定要因となる。
この選択基準を最優先させた結果は病院側の診療体制を度外視することも多く、その後の診療過程に影響する。
診療に際した社会保障体制
診療に伴う費用負担は各国の社会保障体制による影響が大きい。日本地域においても患者の一部負担が実施された結果、保険診療と自由診療の格差は若干であるが縮まった。
その反面高齢者を筆頭に受診率は下がった。
社会保障体制と患者の家計
社会保障体制の変化は患者の家計における診療費用負担に大きな影響を与える。
この結果、受診率を下げるだけに留まらず処方された治療薬の費用比較まで及ぶ。
患者住居周辺の自然環境
患者を取りまく居住環境は在宅治療か入院治療かを選択する際の判断基準のひとつとなっている。
まず、騒音や大気汚染などの点において住居周辺が患者の治療に適しているか否かである。
次に、気温や日照などの気象条件の点において住居周辺が患者の治療に適しているか否かである。
最後に、周辺に緑地帯や庭園そして河川などが在るか否か。
あるいは住居の窓辺に草木が在るか否かである。
これらの環境は治療に際して住居を取りまく重要な自然条件である。
患者と収入源を軸とした利益社会関係(地域としての村落と都市)
農村や山村そして漁村などの村落を基礎とした地域における生産活動は商業や工業そして行政などの都市を基礎とした地域のそれとは異なる利益社会関係を結ぶ。
村落経済は自然環境と密接に結びついており、患者の収入源がそこに依存している限り地域の慣習と無縁に治療生活を過ごせない。
他方、都市経済は自然環境に直接依存せず、患者の収入源と居住地域の関係は希薄である。
この結果、地域の慣習と無縁に治療生活を過ごすことが可能となる。
患者と地域社会との関係を軸とした共益社会関係(地域としての村落と都市)
村落部の地域社会関係は実生活構造における生産活動の面で密接なつながりをもつ。
その結果、患者は共益社会関係を軸とする共同体の中で治療生活を過ごすことになる。
他方、都市部の地域社会関係は実生活構造における生産活動の面で希薄である。
患者はそうした消費生活の局面に応じた疑似共同体の中で治療生活を過ごすことになる。
その生活の違いは在宅治療の場合に顕著に現れる。
日本での介護保険制度の実施が本格化したときにその違いとなって現れであろう。
この制度の実効性は実生活構造における生産活動と消費活動が分離していない地域で少ないと考える。
旧来の地域共同体の習律と齟齬を起こすこと、専門の介護者が地域に存在し定着出来るか否かなどのことから村落地域において困難性を伴うと予想される。
患者の思想信条と家族間の紐帯との差違(家族社会関係)
アンケート数500、回収数438、質問項目54をもとに分析した。
そのアンケートの特徴は回答内容、回答の有無、他の回答との整合性、二つ以上の回答欄の内容比較などによって、回答者の思想信条を推測する事を目的としていた。
その結果、回答者の思想信条と家庭内での役割との差違が認められるケースがあった。
この場合、回答者が患者となった場合、あるいは家族が患者となった場合に実生活に支障をきたす可能性を秘めている事になる。
家族紐帯と家族構成の差違(家族社会関係と現況)
家族の紐帯は家風をつくる中心人物の思想信条によって大きく変わる。
しかし、その内容は家族構成による影響を受け変化する。
また、構成者達の加齢によっても中心人物の家庭内の地位関係が変化するに従い変わるのである。
この事はアンケートの複数項目の比較解析で矛盾した視点の部分を読みとることによって可能であった。
患者の居住環境
患者は出身地による思想的影響を意識下で受けながら、自身を取りまくさまざまな居住条件の中で受診行為を決定する。
患者自身は幾つかの要因で入院や病院訪問の決意をする。
この意味で患者の分析は個別的でなければならない。
共通要因は、住居地、居住年数、付近の駅、出身地、性別、年令、家族構成、付近の家並、付近の河川、付近の診療機関、などである。
個々の分析のための共通要因とその解析の意義について述べる。
居住地調査
居住地調査は個別の対象となる患者が住んでいる場所を特定してその患者の周辺を解析するために行う基礎的な調査要因である。
居住年数調査
居住年数調査は現時点での状況把握のみならず背景に存在する患者の歴史民俗学的調査のための基礎資料を与えてくれる。
付近の駅
付近の駅は移動の規制条件として社会条件を分析する上での重要な要因である。社会条件は変更する事が可能である。
しかし、公共施設としての鉄道の駅とバスと停留所は、患者とその家族の行動範囲や行動パターンをあたかも自然条件の如く規制する。
出身地調査
出身地調査は意識の背景にある思想的基盤を類推する際にその資料の一つである出身地域の民俗学的知見を求めるためにある。
しかし、個別分析においては民俗学的類推の手がかりとして資料的価値しかないことに留意したい。
性別調査
性別調査は患者家族及び社会関係の背景調査として重要な意味を持つと考える。
その背景は利益社会関係を軸とした差別構造の男性社会関係と女性達がおかれている被差別的状況である。
その状況からの防御として疑似共同社会関係を結ぶ女性社会関係がある。家族社会関係分析のための基礎である。
年令調査
年令調査は患者個人の生活史における社会状況変化に伴うさまざまな影響を考慮し、家族社会関係を分析するための基礎資料である。
家族構成調査
家族構成調査は家族社会関係を考察する資料であり、その家族構成が実生活構造にどのような影響を与え、どのような影響を受けるのかを考察するための基礎資料でもある。
付近の家並調査
付近の家並を調査する事によって患者とその家族が居住する街の特徴と社会構造を類推することができる。
専用住宅街や商店街などは階級構造や階層構造そして流通構造の終末消費に直接を知ることのできる家並である。
また、工場街や事務所ビル街は生産構造や金融構造に直接関わり、流通構造に間接的に関わる家並である。
家屋の構造や家並の構成を分析することはそこに棲むひとの意識を解き明かす事になる。
そして、一見すると脈絡がないとおもわれる個々住民の意識の共通性や関係は抽象的であるが類型化することが可能となる。
この諸類型は社会構造分析のための指標とする事ができるのである。
付近の河川調査
付近の河川は暗渠化した部分を再現することが重要である。
これにより、その地域の自然環境の歴史が分かる。
また、水利を軸とした場合、河川によって分断される関係は村落形成過程と町への変化過程を分析する際の地理学的な道標を提供してくれる。
付近の診療機関調査
付近に診療機関が存在する場合は何の診療科を標榜しているかが調査項目として重要である。
次に患者居住地と交通機関そして診療機関の地理的な位置関係を調査する事が必要である。
患者とその家族の受診行為はこれによって決定されると言っても過言でない。
付近に診療機関が無い場合、患者とその家族の受診行為は近傍の駅周辺に存在している病院などによって限定され決定づけられる。
付近の環境
付近の環境は実地体験に基づく総合判断でなければならない。
患者の居住環境の共通要因を分析した後に総合判断の過程において現地踏査による所感を交えた経験的補正を行う必要がある。
この結果、環境は居住者の個別分析のための付近という条件を充足できるのである。
医療環境
患者とその家族が受診あるいは入院という非日常的実生活を始めた場合、患者と家族そして医療機関をつなぐ生活は意識と実生活のどちらにも多大な影響を及ぼす。
時として生活の中心軸となることもある。
この観点から、患者とその家族の受診行為を中心に独自アンケートの個別的分析結果を交えて解析をした。
この結果、患者家族社会関係は大きく変化することがわかった。
対する診療機関とりわけ病床を持つ病院など病室整備などは一般社会の要望を満たしていない。
特に、大部屋の解消と全室個室化は患者とその家族のくつろいだ交流である心の充足にとって必要不可欠である。
この事は患者の人格を保障するのみならず治療の一環として実施されるべきである。
以上のような総括を踏まえて、以下の趣旨で医学社会学研究会の創立に向けて準備を進めている。
趣意書
医学社会学を出版して、早くも数年が経過しようとしている。
その後、インターネットのホームページを開く際に様々な語句の修正に加えていくつかの重要な概念を改訂した。
序論で展開した重要な概念で変更したのは、上部構造を意識構造に、下部構造を実生活構造に換えた点である。
その理由は建築上の概念を援用した比喩的表現から分析可能な表現に換えることにより、その意味が直接に伝わることと、存在する事象の変化に伴う概念規定の変更を容易にするからである。
意識構造は政治、法、行政などが大衆の支持と正当化の結果に生じた現実形態である。
この意味において意識の宗教的信念や倫理観を軸とした共同社会関係そして経済的利害を軸とした利益社会関係を統合した個人意識の集合構造として定義づけられるべきものである。
実生活構造はそうした意識構造と密接に関係しながらも各々の個人や集団の思いや理想と乖離してでも貫徹される客体的事象である諸経済の構造を軸とした個人生活の集合構造として定義づけられるべきものである。
ひとの営みが自然と無関係でないように人々の営みである社会も自然と無関係ではあり得ない。自然環境が村落はもちろん都市の形成においても重要な要因となっている。
自然地理的条件は生活圏を規定することが広く知られている。
例えば、都市地図上で近くにある病院であっても交通手段の有無や地形上の歩行困難そして治安の善し悪し等により敬遠されることもある。
ひとと人々の営みがこうした自然条件のみ決定されるわけではない。交通が不便であっても多少の歩行困難であっても、評判の良い病院や専門病院は遠方の患者を引き寄せることが多い。
現代医学は自然科学を基礎に発達してきたがその根底に人々の生活観が存在していた。医学における医療関係者と患者そして医学の関係は社会関係と自然法則の新たな関係を提示している。
例えば、ある疾患において、診断と治療は多様であるが、自然科学的領域における最善の治療法はある程度限定される。
しかし、その治療法と患者の生活環境を照会したとき、それが最善であるか否かは患者自身の判断に委ねざるを得ない。
医学社会学研究会はこの視点から診断と治療過程に即して研究してゆく。
診断と治療は病人の状態に則して行われる。
また、病人の状態は救急処置を要する場合と既に確定診断がついている場合に別れる。
次いで、通院可能な状態と入院が必要な状態そして在宅医療が可能な状態に区別される。
病人の生活環境はその社会構造に規定され個々の事例ごとに多種多様である。
そして、疾患の鑑別と治療の過程は生活環境の知見と深く関わる。
この事を念頭に置き、医学社会学研究会は診察から治療にいたる経過をMedical Sociologyの研究対象とする。
医学社会学研究会は社会科学と自然科学の統合をめざす目的もある。
自然科学で取り扱われる領域と社会科学が取り扱う領域の中心に人の営みがある。
従って、さまざまな課題はその定立においてひとの価値判断があるとする視点によって、研究を進めることとなる。
河川を中心とした人の営みと集落の形成を念頭に置いた地域の分類は医学と医療の領域に踏み込むための道案内の役割を果たすものである。
更に、自然科学と社会科学の関係という思想史上の困難な命題を分かりやすくする意味でも、医学社会学調査の基礎資料を収集する為でもこの部分は重要な意義を持つのである。
呼びかけ文より引用
社会を構成する基礎単位をどこに求めるのか。自然の一部である人即ち個人であるか、社会を再生させる基礎である家族社会関係であるか。
社会学においてもこの事が議論されてきた。
何れにせよ、一般社会人が日常生活において営む生活はあらゆる幸福感の基礎といっても過言でない。
それは家族社会関係のなかに見ることができるだろう。
あるいは習俗習慣を基礎とした伝統的文化という社会関係に見ることもできるだろう。
また、あらゆる場面において変革を求める社会関係に見ることもできるだろう。
一般的に、朝に目覚めて昼に活動をして夜を過ごし就寝する。これがひとの生活である。
個人と家族が健康に過ごす事そして余暇を楽しむ事が文化的生活であるといえる。このために人々は心身の健康を保持することに努めるのである。
だが、ひとはある日突然病気になる。
このときに家族社会関係は大きな影響を受ける。
当事者である患者は一刻も早くかつての生活を取り戻したいと考える。
周囲の家族も闘病中の患者に気を使いながらかつての生活を取り戻したいと考える。
個人差があるにせよ、あらゆる疾病は独特の一定経過をたどる。
その事による影響は個人と家族のそれまでの日常生活に大きな影響を及ぼす。
治療、それは病院や診療所によって治療法に大差はないと思われている。
そうなのだろうか。
家庭環境に及ぼす影響はどこの病院に通院あるいは入院しても同じなのだろうか。
日常生活の行動範囲なのか否かによって、違いが生じるのではないか。
これまでの生活体験を通じて、治療法の違いや入院の有無による影響を考えることが明日の日常生活を支えることになる。
この視点からの検証が明日の医学を築く礎となるであろう。
Indexに戻る