医学と社会

1
現代医学と科学信仰

現在まで医学に関係するさまざまな研究が成されてきた。その内の医学と社会の関係については医事法学、病院経営学、医療統計学、医学情報学、医史学、公衆衛生学、医療社会学、社会医学等々である。

これまで実在する社会の側から医学という知識の集積という存在に対する関係を明らかにしてきた。
ここでは医学から社会に対する関係を明らかにする予定であるが、既に述べたように様々な独自の体系化された研究がある。
ひとは自分自身が健常の時、こうした研究結果に対して客観的な理解なり批判を持ち得ても、一転して病気になると医学知識の曖昧さと病人特有の弱気から、高度な先進医療研究やその成果を無批判に受け入れてしまう傾向になるのである。

人々は冷静さを失った結果、科学や医学に対しても信仰を生み出したのである。
こうした医学信仰の存在を証明する為には、一般的な科学信仰批判や医学史的実証を踏まえて、最新の医学研究内容や現代医学に触れることが必要である。

従って、社会を構成する文化領域の一つである医学、そこから実社会との関係性を追求する事は科学信仰を生み出す要因の一つを明らかにする事にもなる。

一般社会人が医学信仰や科学信仰から脱して、医学研究への参加という変化を遂げるための医学知識習得の機会を保障する事は、大学と大学院の在り方という教育社会学の領域に踏み込まざるを得ない事にもならざるを得ないのである。

まず、医学と社会の関係を明らかにする為、医学に寄せる社会的心性と医学が実社会へ及ぼす影響の差違を明らかにしなければならない。

最初に医学と社会の関係として、一般人が総合病院や専門病院に期待する保健医療としての高度先進医療の概況を述べる。

次の条文の内容は各大学が研究している最先端医療研究の総てを示している訳ではない。
しかし、患者が健康保険制度を利用して高度先進医療と接する機会には制約がある事を示している。


1994年度平成6年度の、保健医療機関及び保険医療養担当規則第五条の二の第二項の規定に基づく高度先進医療機関が実施する療養、昭和六十年十月十九日厚生省告示第百七十五号等の医療機関と療法について、東京都の部分を抜粋して紹介する。


日本歯科大学歯学部附属病院
インプラント義歯に関する療法

東京歯科大学水道橋病院
インプラント義歯に関する療法

国立ガンセンター
モノクローナル抗体による検査に関する療法
電磁波温熱療法に関する療法

国家公務員等共済組合連合会虎ノ門病院
人工内耳
血管内超音波による診断

東京慈恵会医科大学附属病院
経尿道的尿管砕石術に関する療法
人工膵臓に関する療法
電磁波温熱療法に関する療法

東京医科大学病院
直接電流による骨電気治療法に関する療法
脳血管内手術に関する療法
人工内耳に関する療法

慶應義塾大学病院
電磁波温熱療法に関する療法
脊髄誘発電位測定に関する療法
補助人工心臓療法に関する療法
経尿道的前立腺高温度治療

東京女子医科大学病院
モノクローナル抗体による検査に関する療法
電磁波温熱療法に関する療法
自己血回収器具を用いた術中自己血回収に関する療法

日本医科大学附属病院
経尿道的尿管砕石術に関する療法
経皮的尿路結石除去術に関する療法
電磁波による骨電気治療法に関する療法
内耳窓閉鎖術に関する療法

順天堂大学医学部附属順天堂医院
人工膵臓に関する療法
脳血管内手術に関する療法
微少銅線による脳血管性病変に対しての電気的凝固治療に関する療法
脊髄誘発電位測定に関する療法
内耳窓閉鎖術に関する療法
マイクロサージャリーを利用した各種血管付自家、複合組織移植に関する療法
モノクローナル抗体による検査に関する療法
組織拡張器による再建手術に関する療法
完全埋込式頭蓋内圧計による頭蓋内圧測定に関する療法

東京医科歯科大学医学部附属病院
脊髄誘発電位測定に関する療法
内耳窓閉鎖術に関する療法
モノクローナル抗体による検査に関する療法
電磁波温熱療法に関する療法

東京医科歯科大学歯学部附属病院
インプラント義歯に関する療法
額面顎補綴に関する療法
顎変形症の外科手術前後における歯科矯正治療に関する療法

東京大学医学部附属病院
ガンマユニットによる定位放射線治療

昭和大学病院
電磁波温熱療法に関する療法

東邦大学医学部附属大森病院
マイクロサージャリーを利用した各種血管付自家、複合組織移植に関する療法
経皮的尿路結石除去術に関する療法
電磁波による骨電気治療法に関する療法
人工膵臓に関する療法
電磁波温熱療法に関する療法

帝京大学医学部附属病院
内視鏡的胆管結石除去手術に関する療法
電磁波による骨電気治療法に関する療法
ガスクロマトグラフィー、マススペクトロメトリーによる先天性代謝異常診断に関する療法
Inー標識血小板による血栓症シンチグラフィに関する療法

日本大学医学部附属板橋病院
人工膵臓に関する療法
脊髄誘発電位測定に関する療法
電磁波温熱療法に関する療法
埋込型脳、脊髄刺激装置による難治性疼痛除去に関する療法

杏林大学医学部附属病院
モノクローナル抗体による検査に関する療法
経皮的尿路結石除去術に関する療法
完全埋込式頭蓋内圧計による頭蓋内圧測定に関する療法
体外衝撃波による胆石破砕治療に関する療法

東京慈恵会医科大学附属病院第三分院
内耳窓閉鎖術に関する療法
モノクローナル抗体による検査に関する療法



続いて一般人が医学の専門的論文に接する三つの過程を紹介し、そこから発生する問題とその解決の糸口について述べる。

第一の過程

一般社会人である我々が専門的な論文に接する機会として新聞やテレビなどで癌の難病などの最新の治療法やその効果等が紹介される事が多い。
しかし、その結果として生じるのはその後の研究過程の困難さや治療効果の問題点を無視した期待感のみである。
こうした紙面の制約と情報媒体の社会的性格からなる断片的な記事により専門的な論文の価値が情報の受け手である一般社会人の側の理解力の程度によって決定されてしまうという結果を生み出したのである。

第二の過程

そうした専門的な論文の価値が多くの専門家や研究者の間で評価されて治療効果が結果として現れた事実によって、社会への影響が決定づけられるという事がある。

第三の過程

医事裁判の事として専門家である医療関係者と患者の争いとなって現れる。
そして、多くの医事法学者が指摘しているように、この過程は診療の際に医療関係者と患者の意志疎通が不足していたことに起因している事が多い。

次に、医学の社会に対する影響にとして最近話題となっている遺伝子治療を中心として考察を行い、これらの過程で発生しうる事を例として問題解決の糸口について考察したい。

治療における薬剤投与は、感染組織または感染細胞にウイルスが吸着しておこる細胞膜変化に特異的に感応する治療薬として投与するのか、あるいは多くの組織に感応するが遺伝子レベルでは反応しない治療薬として投与するのか、ウイルス固有の遺伝子を標的として不活性化させる治療薬として投与するのか、という問題を孕んでいる。
しかし、これらは遺伝子治療と称さない。

一般的に遺伝子治療という表現を使う時、人間の体内にある遺伝子にウイルスのエンベロープなどを利用し、別の遺伝子を組み込む事や特定酵素による遺伝子の切除や接合等の一定の操作を行う事を意味する。
しかし、人の遺伝子の操作ではなくウイルスの遺伝子に対して操作を行い、弱毒化などを図ったり病原ウイルスに対抗する変異株を創り出した場合、そのウイルスが体内に投与され発現した時に発生するかもしれない変異原性への懸念が払拭されたわけではない。
従って、ウイルスの生活史を考慮しても、遺伝子治療の範疇を広げて社会的な関心を喚起すべきである。

一方、遺伝子治療による効果によりこれまでの抗癌剤などに見られた正常細胞や正常臓器への傷害の減少化や難病とされた疾患を治療する事が可能となれば、患者の肉体的精神的苦痛の減少や治療効果の増加が望めるのである。

また、この研究や治療は障害者への差別防止の為の行動計画を明確にするなどの社会的責任を果たす事を前提として進める必要があるだろう。
こうした一連の手続は社会的合意と患者個人の対話を経た合意を得る事によって問題解決の最大の糸口となるであろう。

引き続き、医学と向き合う社会的心性と医学が及ぼす実社会への影響、そしてこの二つの存在の差違に焦点を絞りその周辺を明らかにしたい。

医学に寄せる社会的心性と医学的知識の理解水準は大きく違っている。
しかし、こうした研究の過程における治験薬の臨床試験やその結果として承認された薬剤が新しい治療法として一般人である患者の体内を侵襲するのである。従って、対象とされる個人の側が無関心であってはならない。

底流に一般社会の医学への理解は医学信仰があり、それが社会的心性として存在しているのが障壁となっているのである。

医学が及ぼす実社会への影響として、例えば薬剤コントロールが難しければ入院を余儀なくされ専門医療機関での入院と治療が実生活上に対して大きな影響を持つ場合が多く現出し、対して薬剤コントロールが簡単であれば患者はそれまでの生活状況の変化が少ない場合が現出するのである。
しかし、社会的心性と現実的な医学の影響の差違は既に述べてきたように一般社会の総合病院指向の現象を生み出したのである。

2
医学信仰を打破する為の諸課題

医療制度について

国際比較によりその社会の思想的基盤および実生活的基盤を明らかにする必要がある。
何故ならば、個人の自由や尊厳あるいは生活の有り様は価値基準や経済構造によって大きく影響を受けて、医療に対する姿勢も異なると思われるからである。

医療機関について

国際比較により院内感染予防や万一の事故に対する事後処理についての知見を収集する必要であるが、まず、病院での診療体制、使用する薬品の選択基準、看護体制、医療関係者の自己研鑽、経営理念等についての現地踏査に拠る比較研究が必要であると思われる。

薬剤製造過程について

大学等の研究機関での研究目標を設定した、それまでの生物医学的研究課題の単なる継承を含む動機の解明および基礎研究の重要性と応用研究に至る過程の解明により一般社会との関係を具体的な事例をもって明らかにする。

製薬産業について

製薬産業の構造的特徴を明確にし、経営理念と研究の在り方を企業比較によって行う。
特に製薬過程における臨床実験は治験薬の使用という医療行為と研究行為の狭間に位置しており、医学と社会の最も直接的接点であるという特徴を持っている。

患者と医師の対話

治験に際して、患者は医師との対話を求めている。
即ち、疑問が素直に出せる雰囲気と分かり易く正確な説明そして再質問が容易に出せる状況を求めている。
その主な諸点は治験の承諾前の質問やその中断と予後の保障を求めているのである。
この事が制度的および実質的に保障されているかである。

諸問題の発生原因と解決

諸問題の発生原因は社会学領域としての医学社会学が学問として確立されていない事、一般人が医学知識を習得する機会が学校教育で殆ど行われていない事の問題に起因している。
解決の方法として、教育社会学の領域に踏み込む事によって可能であると考える。
一般社会人が卒後において在る分野の高度な知識を獲得するための理論研究や現地踏査そして実験を行う場所としては大学院や研究所が最適であり効率的でもある。
しかし、高度な医学的知識の修得を一般人が目指したとしても家計維持での制約や大学院入学制度の壁に突き当たることになる。この辺りの事情は医学の分野に限らず研究所あるいは大学院の在り方の問題として少し触れておきたい。

まず、日本の教育制度の法的根幹をなすのは学校教育法であり、具体的な運用は大学設置基準を充足した認可によって大学等の設立および運営が規制されている。

先進諸国にはリカレント繰り返し教育体制を整備しているところが多くある。
その内容は日本での生涯教育と一部共通するところもあるが、全く異なる制度であり、当初は国連のユネスコにおいて推進が図られ、現在までに多くの先進国では制度化されたのである。
その特徴は制度の内容に違いはあるものの学生あるいは研究者の家計の保障と休暇の保障そして復職後の保障を目指すものとして共通している。

日本では臨時教育審議会において大学の在り方、特に修士課程と博士課程の在り方を再検討して大学院の設置基準の弾力的運用と研究者の入学と育成を実践指針としたが、大学改革はあまり進んでいないようである。
その原因はさまざまであると思われるが、ここでは個人研究者達の一般的傾向と彼らが研究機関に所属した場合のプログラムの在り方を考察し、新たな問題提起に留めておきたい。

個人研究者は研究分野、最終学歴、研究歴等、実にさまざまである。個人研究者の著作に共通するのはその研究する分野についての知識が体系的に修得されていない事、あるいはその分野自体の体系化が確立されていない事である。
この結果、その研究成果を事例研究の段階に留めざるを得ないようである。

一定の専門的支援があればこうした研究は二つの方向で成果をあげる事ができる可能性を秘めているのである。

まず、専門的な既成概念の援用により、応用の分野で独自の発想での研究成果をあげることの可能性である。

次に、そうした事例の研究結果がさまざまな専門的支援の結果により学際分野での研究であると断定することが可能となれば、その分野の基礎研究と体系化が可能となり学問の系統樹はまた一つの枝を伸ばすことができる可能性である。

個人研究者の多くは年配者であり、個人研究が一定の段階にある事などを考慮すると学部での教育にはなじまないと考える。
従って、こうした事例研究に対しては既存の専門分野から支援する事例研究法によるプログラムとすることが望ましいのである。

つぎの章で今後の社会状況の変化を予測して、既に展開した 実生活構造の分析結果を踏まえた問題提起で終わりたい。

我々はこの章の最後で純然たる生物医学的諸課題と思われたものが一般社会の思想的状況と経済的状況によって強い影響を受けている事を知るであろう。

日本における経済状況は国内資本の減少化を辿ると予測される。他方、資本の海外流出は増すであろう。また、日本企業の海外進出に伴い、既知の国となる日本に海外からの労働人口が流入してくるであろう。

一方、こうした資本状況や労働状況を踏まえて日本企業の内向的性格は一層深まり、現象的には気心の知れた仲間支配の強化として、本質的には企業官僚主義の硬直化としての傾向が強まると考える。
この結果、従来は企業の活性化に一定の役割を果たした異端者の排除傾向を強めることが予測される。
こうした異端者の活路は海外からの流入者を受け入れる社会を創り国際人となることである。

その理由の一つは同じ労働市場にある事であり、また一つの理由はこうした社会階層の差別化はいずれ失業者の増大と社会不安の増大となって破綻する方向に向かうからである。

民主国家の政治権力は異端者を正当支配に組み入れる必要から、企業官僚主義に対する警告を発するであろうし、そうした異端者達の取り込みによって局面の打破を測るであろう。

こうした予測される社会状況の変化に伴い日本における医療保障体制の目的も変化して、特定の年齢層を中心とした階梯的医療保障として、働き盛りであり家計を担っている中高年者を疾病から守るという目的から外国人を含むより広い社会層への医療提供を目的とする内容に変化するであろう。

この結果、医学研究の課題は一部にこれまでの高度先進医療研究を残しながら、大勢は次第に日常的に頻発する疾患のような分野での医学研究へと変化して行くであろう。
勿論、社会状況の変化が予測通りに進行しなければ、医学研究の課題の変化する方向もこの限りでないのは言うまでもない事である。


医学と社会

社会を構成する諸個人は抽象的でなく匿名でもない。
従って、より具体的な実生活の状況を理解したうえで医学と社会の関係を明らかにするのが正統であると考える。
しかし、個人や病院等のプライバシーを考慮すると自ずから限度が生じてくる。
この辺りの事情から、この類型も原型を造り上げる為の無作為抽出による仮説モデルである事をお断りしておく。

尚、救命救急活動の初動体制として、平成5年度 救急活動の実態、東京消防庁総務部、編集、発行、平成6年刊行から幾つかの項目を紹介し考察したい。

先ず、行政区別救急隊配置状況と心電図伝送指定隊と救急無線による心電図伝送暫定運用隊そして保育器運用指定隊の23区内の配置状況と直接関係する循環系疾患者搬送数と未熟児・新生児搬送数の比較を行った。
23区内の行政区別救急隊配置状況によると、心電図伝送指定隊配置は次の通りである。

第1方面
千代田、中央、港の麹町消防署永田町救急隊と高輪消防署高輪救急隊
第2方面
品川、大田の荏原消防署荏原救急隊と大森消防署大森救急隊
第3方面
目黒、世田谷、渋谷の世田谷消防署世田谷第1救急隊
第4方面
新宿、中野、杉並の牛込消防署牛込救急隊と杉並消防署杉並救急隊
第5方面
文京、豊島、北、板橋、練馬の豊島消防署豊島救急隊と赤羽消防署赤羽救急隊と板橋消防署高島平救急隊と練馬消防署石神井公園救急隊
第6方面
台東、荒川、足立の荒川消防署荒川救急隊と足立消防署足立救急隊
第7方面
墨田、江東、葛飾、江戸川の向島消防署向島救急隊と城東消防署城東救急隊と本田消防署本田救急隊と小岩消防署北小岩救急隊

23区内の「行政区別救急隊配置状況」によると、救急無線による心電図伝送暫定運用隊配置は次の通りである。

第1方面
千代田、中央、港の麹町消防署九段救急隊と京橋消防署銀座救急隊と芝消防署芝救急隊
第2方面
品川、大田、の品川消防署五反田救急隊と蒲田消防署蒲田救急隊
第3方面
目黒、世田谷、渋谷の玉川消防署玉川救急隊
第4方面新宿、中野、杉並の新宿消防署新宿救急隊と中野消防署宮園通救急隊と杉並消防署高井戸救急隊
第5方面
文京、豊島、北、板橋、練馬の本郷消防署根津救急隊と池袋消防署池袋救急隊と志村消防署赤塚救急隊と練馬消防署練馬救急隊
第6方面
台東、荒川、足立の日本橋消防署日本橋救急隊と荒川消防署南千住救急隊と足立消防署淵江救急隊
第7方面
墨田、江東、葛飾、江戸川の城東消防署砂町救急隊と本田消防署城東救急隊と奥戸消防署本田救急隊と江戸川消防署江戸川救急隊

23区内の行政区別救急隊配置状況によると、救急無線による保育器運用指定隊配置は次の通りである。

第1方面
千代田、中央、港の丸の内消防署有楽町救急隊
第2方面
品川、大田の蒲田消防署羽田救急隊
第3方面
目黒、世田谷、渋谷の渋谷消防署富ヶ谷救急隊
第4方面
新宿、中野、杉並の杉並消防署杉並救急隊
第5方面
文京、豊島、北、板橋、練馬の志村消防署志村救急隊
第6方面
台東、荒川、足立の足立消防署淵江救急隊
第7方面
墨田、江東、葛飾、江戸川の墨田消防署立花救急隊

この救急隊の配置状況における「疾病分類項目別傷病名」での搬送人員は次の通りである。
総数208637の中、循環系疾患は16753であり、未熟児・新生児は19である。循環系は総数に対して8.6パーセントの構成比である。
救急隊の懸命の努力にも関わらず、救急活動での絶対数が不足しているように思われる。
具体的な地域別の発生や道路事情そして結果評価の詳細に関する資料がない事から、この実態報告書のみでのこれ以上の考察は不可能である。
しかし、循環系疾患の患者や未熟児・新生児の搬送発生件数に依らず、短時間に搬送する必要のある心筋梗塞患者などの例を考慮する。
現状の数字は1救急隊の対象とする地域に患者の発生が重複した場合に他の救急隊の応援を得たとしても、現状以上の走者と設備の充実そして救急隊員の増員が必要であると推察される。

疾患名の判明した搬送人員の第4位を占める循環系疾患を選び、原型モデルを構築してその考察を行いたい。


エリア
000

住居
A区B町0丁目

付近の駅
A
B

都バス
00

出身地
東京都A区

性別


年齢
45

家族構成
大人2人
子供2人

居住
17

付近の家並
木造2階建切妻造
鉄筋建雑居ビル

付近の河川
S川、A川

付近の総合病院
C病院


居住環境

この地は江戸時代から宿場町として栄えたのであるが、近年になり近県が東京郊外となり住宅街がT やS そしてI 県に広がるにつれて乗り換えする人々が増大し、東京の主要ターミナル駅の一つとなったのである。

S 川とA 川に挟まれて繁華街が広がってゆけないという地理的条件の為と、繁華街と繁華街を結ぶ山手線のループ上から外れている事により、巨大資本や再開発による小売市場の集約化が遅れている。
この理由から駅の乗降客が多いにも関わらず、町の変容は鈍く20年から30年前の周辺を彷彿とさせる趣がある。
だが、駅近くの住宅街に迫り来る鉄骨筋建のビルはこの町の変容の方向を予期させるものを感じさせた。

発展という言葉の意味を省みて、改めてこの街の別な表情を見ると神社や寺の存在はこの町の昔ながらの面影を留めており、この街の歴史の厚さと発展の後を感じるのである。

そうした歴史の厚みが駅前を中心とした現在の変容にどのように関わっていくのかは今後の課題のように思えた。
尚、ここで発展という表現の意味を明らかにしておきたい。

それは現象として現れた都市機能の分化という単なる事実としての意味において承認する事が可能である。
しかし、資本の集積による都市の機能的な合理化である住宅地域と商業地域あるいは工業地域といった分化の過程や、流通業務地域と高度情報化地域といった都市計画上の区分や法文上の規定を根拠に発展とする事には疑問を持つからである。

それは他方において、昔ながらの面影を残す街角がもっていた優しさである細やかさが失われてゆく過程でもあり、こうした事態を表現する事に「発展」という言葉を使うのを躊躇するからである。
何故ならば、経験的な意味において経済構造と発展という思想の関係は次のようであると考えるからである。

産業構造と流通構造そして金融構造における資本の効率的な運用は、経営という人為的な営みが起点であるにも関わらず、その中心軸は資本主義経済構造とそれを支える思想的本質から自由ではない事である。

つまり、民主主義国家における民意の反映である筈の法的な諸規制にも関わらず、現実の経済活動は利益追求の思想を基点として発展しており、都市計画などの法的規制は後手に回り、大まかな実効性しか意味をなしていないからである。

東京湾の埋立地における実情を例に取るならば。そこが法的諸規制が首都圏における経済活動の制御を可能にするというものではない事を立証している。

それは東京港の臨港地区が、公有水面埋立法や港湾法の規制にも関わらず、その土地利用の実情において土地投機の対象としてされているとしか理解できない事例が多く見られる事である。

また、それらの事例に該当する諸企業が自社の本来の事業である流通業とは異なる投機的事業に着手したのは、極めて低利な公的資本や金融資本を利用する事が可能であった事、いずれ流通業務地域が情報産業や金融産業の拠点としての高度情報化地域や住宅地域へと法的規制が変わるであろう事を予見できた等の理由によるものと思われる。

ここで明らかに解る事はふたつある。

ひとつは経営という人為的営みが存在するにも関わらず、基本的には利益追求が最大目標となり法による規制というものが民主主義国家における民意の反映であるであるという側面は忘れ去られるという事である。
その結果、経営理念自体が無意味なものとなって人為的営みであった筈の自律性がそうでなくなっている事である。

この現象は利益追求のみの経営が人為的に見えても自然史的に捉えることができる事を意味するのである。
従って、自然科学のような法則性があるとして発展という表現が可能となるのであろう。
人々の制御が効く街造りこそが発展の名に相応しいと言えるのではないだろうか。
また、ひとつは民主主義国家における民意の反映であるであるという法的諸規制が、経済活動に対しては従属的となるという事実から、民意も企業や業界に対して従属的位置に押しやられるという事が理解される。

発展という表現には前提とした思想的背景や社会的背景ががある事を知るべきである。
そうした作業を行った上で発展という概念規定をしたい。

医療環境

家族構成は本人と妻そして成人した子供の4人であると推察される。また、C 病院には都バスの都バス00で行くのが最短の方法である。

彼は医学的知識をある程度持っており、宗教心もあり人生に対し真摯に向き合っている。
だが、アンケートの分析結果によると、思想的は保守的であり夕食の買い物等もした事が殆ど無いようである。
子供が長期入院する事態が発生した場合は妻が夕食の買い物するなどしてこれまでの生活に近い状態を維持することは可能であると思われる。
しかし、妻が長期入院した場合に彼の生活習慣は大きく変わる事になる。

通勤時間や経路から推定すると彼が勤め帰りに妻の病院を訪れてから夕食の支度をする余裕は殆ど無いと推定できる。
病院訪問を休日に限定して勤め先から直接家に帰ったと仮定すると、彼は北千住の駅付近で買い物をする事になるが大きなスーパーストアが幾つもあり小売店も多く時間的にはそれ程の負担とはならない。
むしろ、買い物をする事自体にストレスを感じると思われる。

医学知識の実現過程としての診断と検査そして治療の過程、医療機関や設備そして医薬品の在り方、これらの事を分析する事によって現代医学が社会に及ぼす影響を明らかにして行きたい。

患者の立場からの分析
彼女はスーパーストアで買い物をしている最中に急な胸の痛みを訴えて近くの23区内の救急指定病院、救急指定医院、救急指定診療所、救命救急医療センターのひとつに救急車で運ばれた。

救急隊員あるいは救命救急士の立場からの分析
消防庁の指令により現場に向かった救急隊は患者の容態を確認して消防庁に伝え、消防庁がその内容に従って搬送先の病院を選定する。
搬送の際には状況により安静を保ったり、非開胸心マッサージのみを行いながらの搬送となる。
 
突然の胸痛には、狭心症、心筋梗塞、肺梗塞、解離性大動脈瘤、急性心膜炎、自然気胸、肋膜炎、筋肉痛、等々がある。
ここでの最終的診断は心筋梗塞であったと仮定して先に進みたい。

医師の立場からの分析
病院に到着してすぐに、医師は意識状態のレベルの推移、脈拍の強さと回数、呼吸の仕方や回数、体温の変動状態等のバイタルサインのチェックを行う。
平行して行う検査として、胸部外傷の有無、血痰の有無、心不全の有無、心電図異常の有無等々を、痛みの強さや性質そして持続時間などの問診と同時に触診と視診をする。
また、緊急の薬剤投与を行うための静脈路の確保がある。

これらの一連の作業は医師の指導の基で事前にマニュアルとしてそれぞれの医療スタッフが了解し、現場では自発的に作業を進める事が必要とされるのである。
また、原因疾患の不明時における緊急検査を行い、その検査結果についての診断をする事となる。

当然の事として、緊急時における対処として呼吸の確保と一定の血圧レベルの確保そして痛みの除去および心室細動の除去などを最優先し、速やかなICU(集中治療室)への収容などを行い、諸検査は平衡して付随的に行うものである事を明確にしておく必要がある。

急性心筋梗塞などに際しては他の諸兆候により重症度に応じた緊急救命医療が為されなければならない。
また、搬送前に心疾患であることがわかっている場合、心疾患を専門とするCCU冠疾患集中治療室が設置されている病院に搬送される場合もある。

心電図検査
人工ペースメーカーの有無を確認の後、心疾患の疑いの有無と発症部位の推定そして心臓モニターの為に心電図検査を行う。

今回の仮想の症例の場合、ST上昇、異常Q波、T波増高が認められ、心筋梗塞が疑われた。

動脈血ガス分析
生体のpH、動脈血酸素分圧・二酸化炭素分圧、炭酸水素イオン値等によりアシドーシスまたはアルカローシスについての知見を得る。

血算 生化学

脱水・貧血 炎症反応の有無と程度、電解質バランスの異常などを調べることにより、原因疾患の特定を行う。心筋酵素や肝酵素の異常も確認される。


今回想定している患者の場合、心筋酵素の上昇が見られることにより、やはり心疾患の可能性が強く疑われた。

検尿

この検査は緊急検査における一般的処置として行われる。
心筋梗塞においては尿検査で有意な異常所見が出ることはほとんどない。今回想定している患者も明らかな異常は見られなかった。

胸部X線検査

胸部単純X線像からは多くの疾患を除外することができるため、救急患者に対しては基本的に必ず行う検査である。
今回の症例では、自然気胸や肺炎そして胸膜炎等の呼吸器疾患の可能性もあったが、X線検査においては明らかな異常をみることはなく、心疾患についての明確な情報を得る事は難しかった。

超音波検査

心臓の動きを直接観察することができ、痛みなどの侵襲のない検査である。
心臓の壁の運動や、心臓の周囲に出血などがないかどうか、心室内に血栓などがないかどうかを確認する。
今回想定している患者では、心室壁運動が低下していたが、それ以外の異常はなかった。

胸部CT検査

X線を使用して、コンピューターでデータを解析することにより体の横断面の画像を得る検査であるが、検査に時間がかかるために、体内の出血や腫瘍、その他の器質的な疾患を調べるために行われる。
今回想定している症例では、超音波検査の段階で心臓周囲に明らかな異常はなかったため、CTの検査は必要ないと判断された。

冠動脈造影CAG検査

血管内にカテーテルを挿入して冠動脈に造影剤を流して観察することにより、心筋梗塞などの原因となる冠動脈の狭窄の部位や程度を特定する。
また、この検査の利点としては、経皮経管冠動脈血管形成(PTCA)による治療を同時に行うことができる。

今回の症例では心筋梗塞が疑われたため、冠動脈造影が行われて冠動脈の一部に狭窄が認められ、PTCAによって直ちに治療が行われた。

こうした一連の治療を受け症状も安定して快方に向かった患者は一般病室に移される。この時点から患者と家族の関係が医療環境の問題として表面化してくるのである。
表面化したこの結果はひとつの現象として内在する幾つかの決定要因により規定されていたことがわかるのである
それらの要因について概略を述べる。

緊急処置の後に心筋梗塞としての診断がされ治療が開始された疾患は治療の過程でさまざまな変化の条件が存在するのである。
それは治療という現実の過程と、この過程を決定する意識構造としての医学的知見の多様性を意味するのである。

急性循環器疾患における心不全などのうちで、特に急性心筋梗塞の主たる死亡原因は致死性不整脈であるといわれている。
それは一刻も速くCCU 等に収容する必要があり、発症後15分以内での治療が予後に対して重大な意味を持っている。
更に、その後の経過に対しても24時間体制で看視する必要があり、患者の心筋梗塞の発症時における存在状態が決定的な要因となる。

既に明らかにしたように、心筋梗塞などの心疾患は行政区別救急隊配置状況や心電図伝送指定隊と救急無線による心電図伝送暫定運用隊の配置状況に因り左右される場合がある。

次に、救急隊により近医に搬送された場合、当該施設にCCU の設備があるか否か、また、設備が無くとも救命救急医療の熟練医が居るか否かによって患者の予後は決定される。
心筋梗塞は不安定狭心症と共に冠動脈硬化症の範疇に分類されるが、その原因は心筋梗塞や不安定狭心症に至った慢性的な心不全の数だけある。
従って、治療の方法は血栓溶解剤や利尿剤そして血管拡張剤などの薬剤投与を中心に行える場合と大動脈内バルーンパンピングや経皮経管冠動脈血管形成そして冠動脈大動脈バイパス移植等の治療を中心に行う場合がある。

都市東京に於ける薬剤を中心とした治療は、どのような種類の医療施設であっても的確な治療が可能であるべきである。
しかし、心不全の外科的治療を中心とした治療は高度な設備と医療スタッフを必要とするのである。
設定に従うならば、CCUをはじめ治療を行うための検査機器や特殊な手術機器はA 区B町の病院に有る場合と無い場合が考えられるのである。
この状況如何によって、患者と医師そして医療施設の関係は異なった展開をするのである。

最後に、患者の家族の立場からの分析を始めたい。
患者の家族は身内の病名を知る努力をする事から出発する。
続いて、その病気を治すにはどのような治療が必要かを医師に尋ねるのである。
そして、その医療施設に患者である身内を託すか自宅近くの医療施設に移送するかを決定するのである。

問題はこの際に生じる。

身内である患者にとって、どのような治療が必要かという医学的判断が難しい事、適切な治療法が可能な医療施設は何処かという判断が難しい事である。
設定として、彼は妻と自分そして子供の実生活が成り立つ範囲での選択を行う事になるのである。

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