
法と実情の乖離そして是正
実生活を支える流通構造におけるこうした法と実状の乖離という実態は、他の運輸業界や倉庫業界そして輸出業界にも存在している。
運輸業界は、江戸末期から明治維新そして二度の国家間の大戦を経て今日に至るまで卸売市場と同様の法と実状の乖離という構造である。
例えば、貨物自動車運送事業についてみるならば、一般貨物運送事業関する法と特別積み合せ貨物運送事業に関する法そして貨物軽自動車運送事業に関する法がある。
これは旧来の一般区域貨物運送事業や一般路線貨物運送事業に相当するものである。それぞれの事業の営業範囲を異なって定めている。
江戸時代から現代に至る運送業界の仕切りを反映しているものであるが、一方において、過当競争等を避ける為の調整を目的とした法として生まれたものである。
これらは一般貨物運送事業を行おうとする者が申請し、それに対して運輸大臣が審査の結果に基づいて許可を与える事となっている。
現状はトラック協会が区域単位から地方そして全国レベルに至るまで業界の調整を行い運輸省への申請指導をしている。
従って法と実態の解離の発生は少ない様に考えられる。
しかし。実状は特別積み合せ貨物運送事業で許可されている場所が倉庫代わりであったり、一般貨物運送事業が行われていたりしている事も多いのである。
国や地方自治体が主導して特別積み合せ貨物の荷捌きを集中的に行う目的でつくった自動車ターミナルも存在しているが、ここでの厳格な運用はどうなっているのだろうか。
他方倉庫業界においても、港湾運送事業法により許可された施設が一般会社の貸借された倉庫となっていたりするようだ。
また、保税上屋で許可を受けている場所に長期滞留物が置いていたりするようだ。
それが一時的現象であったとしても、法が目的とする本来の利用形態とは異なる事は否めず、法と実態の乖離が生じているといえる。
これらの施設は都市東京の流通業務地区に存在しており、都市計画法や首都圏整備法そして流通業務市街地の整備に関する法律によっても規制されているのである。
こうした流通構造に於ける法と実態の解離は消費行動の変化と生産構造の変化そして生産地の変化に伴って現れた事に留意しておきたい。
法と現実の解離は結果的に生じたものである。ならば、現実の状態と法の目的を合致させるように法を改正し、法の実効性を高める事が必要であるといえる。
古来、官僚による無原則的とも思える法の運用は法体系を歪めるだけではなく、官僚主義体制の温床となってきた。
その結果が招来するものは、議会により制定された法の目的を脅かす結果すら生じさせるのである。
時折、官僚の行為が政治的判断よるものであるなどと説明されることも散見される。
内閣や自治体の首長と異なる法の厳正なる執行者に過ぎない官僚にそうした政治的判断をする余地はないのである。
首長であっても、安易な政治判断は有権者の非難の対象となる事もある。
法の執行に際しての実状に応じた臨機応変な対応をする為に、政令や条例がある事を改めて思い返すべきである。
政令は国会の承認を得るという手続きにより、その法に関する解釈が法体系全般に及ぼす影響を最小限に抑える役割を果たすのである。
そして、無原則的な法解釈の余地を与えない事によって民意の実現と法の実行性をより確かなものに高めるのである。
法と法の依拠する実態との乖離は、需要と供給の関係変化に法が追いつけないという事なのか、法を遵守するよりも受給関係の変化を先取りして利益を追い続ける経営意志によるものかの何れかである。
専制君主国家の下であっても、法と法の依拠する実態との解離はその時代の習俗等を無視しては成立しないのである。
法社会学的な見地からすれば、 この限りにおいて民意を反映しているともいえる。
経済界はその経営理念として利権を発生させる官僚主義的な措置を願う事でなく、立法的措置によって実状にあった法の成立に努力するべきである。