実生活構造である医療



 アンケートの集約結果に基づいて現地踏査を行った。

1991年6月〜8月に解答された方と家族の居住地付近を中心とした環境調査を行った。
入院患者である個人若しくは入院患者を抱える個人と周囲の状況について考察した。
 個人と医療環境との関係において、『家族の諸類型』で展開する自然環境と社会環境の総てが外的要因として患者とその家族に影響を及ぼし、『個人と医療環境』として実生活と精神生活の選択を規定する様子を類型化した。

 この諸類型は医学社会学の目的である『 『医学研究とその成果の、一般社会に於ける反映と相対的位置』』の展開に際して、診療を媒介とした医学の在り方の多様性とその根拠を与える役割を果たす事となるであろう。

 尚、アンケートの回答にある詳細なデーターについてどの程度まで公表すべきか戸惑った事を明らかにする。

 原資料にある番地や棟号そして正確な緯度や経度などは研究会の調査資料としてのみ限定的に使用する。

 出身地の詳細そして街の歴史的経過等で、社会的差別を助長する可能性がある内容についてはプライバシー保護と社会的差別を根絶する為に公表しない。
 一見すると、個人の行動は全くの自由であるように思われるが、さまざまな制約により不自由な事の方が多い。

 自主自律の人格者にとって、そうした制約はより強い桎梏となるであろう。

 自主自律を確立した人格者は病人として医師の指示に従わざる得ない状況下でどのような思いを持つのか。
 そうした感じ方や思いに対して、医学や薬学は医療という技術的実践を通してどのような関わり方が可能なのか。

 現地踏査で体感したものを基礎に、個人と家族を取り巻くさまざまな要素の実体を幾分か明らかにする。

 この手法は医学社会学の方法論のうちの経験的認識論であると考える。同時に、踏査をする研究者にとっては実践的な実存論となる。
 体感という主観的要素を含みながら、一見すると個人的とも思われる論の展開する事に一定の意義はあると考える。

  個人と医療環境でふれる内容は、実証や民俗学的記述でなく更なる分析のための理論類型である。

 一般社会人が置かれている状況そのものを反映している事例として、こうした手法が余儀なくされた事に関連して述べておきたい。
 医療施設の内部に立ち入って医療環境を現地踏査する事が可能である条件下で、設備等の外形的調査を主とした分析により類推するなどの制約はなくなるであろう。

 医学は文化として意識構造を構成する。医療は 実生活構造を構成している。

この事の理論的整理は充分なされたと確信している。
従って、これから論じる医療環境とは広義な意味の経済構造であり、 実生活構造の環境の一部を意味するのである。